柳家喬太郎「落語こてんパン」
現役屈指の人気落語家・柳家喬太郎が古典落語を紹介するエッセイ。
現在もポプラビーチというウェブマガジンに連載中で、5年50回分(2004年4月〜09年6月)をまとめて本にしたもの。
- 作者: 柳家喬太郎
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2009/04
- メディア: 単行本
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かなりくだけた文体で書かれており、あっという間に読み終えた。1回5〜10ページとほどよい感じ。
各回ごとに1席が取り上げられており、ストーリー紹介、噺の特徴と演者として気をつけるところ、得意としている師匠、話にまつわるエピソード(思い出話、芸談)などが書かれている。
とは言っても、難しさ、堅っ苦しさは、まるでない。落語にちょっと興味があるという人にオススメ。今も連載中なので実際に読んでみるのが早いかも。(リンク)
すぐに気がつくのは、同業者に対する気の使いよう。敬語、敬称の丁寧な使いまわしと、人の悪口は決して書かないという統一された姿勢に、ああ、やっぱり言葉で仕事をしている人なんだなあ、と。
若者言葉でぶっ飛ばすところもあるが、基本的に落ち着いた目線で語っている。思い出話や経験談が多いためか、「ああ、あれは良かったなあ」という懐かしさを感じやすい。また、面白かったのは、早口での言い回しが苦手であるという、自分の弱点を真っ正直に書いていること。高座でのエキセントリックな感じとは違う魅力があった。
本著に書かれている楽屋話や芸談はそれぞれが興味深いのだが、ここでは「寿限無」のエピソードについて。
数年前、NHKの子供向けテレビ「にほんごであそぼ」で、寿限無の名前を覚える歌が流行していたんだそうな。
ただ、流派や演者によって、名前の細部が違っている。
芸人さんが小学校に行って「寿限無」を演じても、NHKで放送されているものと一語一句違わずに演じないと、小学生は「違う!違ーう!」と大騒ぎ。喬太郎の弟弟子の柳家喬之助などは、番組を録画して、わざわざNHKバージョンで覚えなおしたそうだ。
これで思い出した話が2つある。
春風亭一之輔の「猫久」のマクラ(ぽっどきゃすてぃんぐ落語)。
これまた小学校に行って演じたときのこと。最前列に座っていた子供が、噺がはじまって早々に「これ、牛ほめ!これ、時そば!」と演題を大声で言い、さらに内容まで周りの子供に伝えていた。そして「・・・というところが見どころだから!はい、どうぞ」。
やりにくくって仕様がない。ぎゃふんと言わせてやりたいと思って、そこで噺を途中で大幅に変えて、終わってあげた。
「・・・そしたらその子が泣きそうな顔をして『本当はそんなんじゃないよ!この人、にせもの!』と、にせものにされてしまいました。でも、うれしいんですよ、子供がそこまで知っているというのはね。うれしいけども、あの子供は首絞めてやろうかなと(笑)」
もうひとつ、柳家小三治の「提灯屋」のマクラ(落語名人会39)。
小三治が自宅でカレーライスを作っても、小学生の子供は食べたがらない。その理由を聞いてみると「テレビCMでやっているのと違う!」という。
「・・・これは美味くもなんともないんですがねぇ。弱りましたよ、あんなもの子供に付き合わされて食わされてたんじゃ、こっちはたまらないからってんで、一計を案じましてね。自分でうまぁく作っておいて、で、(CMでやっている商品の)その袋へ詰めてですねぇ、それで冷蔵庫から出してやると、子供は味なんかどうでもいいんですね。あの袋なんですよ。『おいしいねえ!やっぱり!』ってなるんですね。
だからねぇ、子供とかみさん連中を抱き込めば産業はつぶれないっていわれてる、あれはどうも本当らしいですね。品物の善し悪しなんて二の次三の次で、どうでもいいんです。売れればいいんですよ」
最後に、本文中から「・・・の十八番」「・・・は面白かったなあ」「・・・が得意としている」「・・・がよく演っている」を抜き出して列挙した。それぞれにまつわるエピソードについては、購入の上でご確認を。ただ、身内(柳家)が非常に多い、上方落語家がほとんど入っていない、『柳家喬太郎』がない、という点は引き算する必要あり。抜け落ち・書き間違いに注意。
道具屋 五代目柳家小さんの十八番。橘家圓蔵、入船亭扇橋、入船亭扇辰。
まんじゅうこわい 入船亭扇橋「(喬太郎が)落語にのめり込んだキッカケの一つだったかも」。
粗忽の使者 五代目柳家小さんの十八番。古今亭志ん朝、柳亭市馬。
初天神 柳家さん喬の十八番「学校公演ではほぼ無敵」。柳家喬之助。
寝床 八代目桂文楽の十八番。五代目古今亭志ん生、六代目三遊亭圓生、古今亭志ん朝。今は、橘家圓蔵の十八番「師一流のギャグをどんどんぶち込んで」いる。古今亭圓菊、柳家権太楼、入船亭扇遊。
義太夫息子 八代目桂文治の十八番。古今亭志ん駒、古今亭志ん五。
義太夫絡みで、ジャズ息子 川柳川柳「とにかく、名作、最高!」。
提灯屋 五代目小さんの十八番。柳家小三治、柳家はん治、柳亭市馬、三遊亭小遊三、金原亭駒三、金原亭馬遊、柳家喬之助。
青菜 五代目柳家小さん、四代目春風亭柳好。今は、林家彦いち。
目黒の秋刀魚 十代目金原亭馬生の十八番。六代目柳家つば女、八代目古今亭志ん馬。今は、入船亭扇辰。
秋刀魚芝居 三笑亭笑三。
犬の目 柳家小せん。今、柳家小袁治、瀧川鯉昇。
野ざらし 三代目春風亭柳好の十八番中の十八番。八代目春風亭柳枝。
その他、この人が極め付きといった十八番中の十八番は、
明烏 八代目桂文楽。
火炎太鼓 五代目古今亭志ん生。
居酒屋 三代目三遊亭金馬。
芝浜 三代目桂三木助。
包丁 六代目三遊亭圓生。
中村仲蔵 八代目林家正蔵(彦六)。
愛宕山 八代目桂文楽、古今亭志ん朝、春風亭小朝の十八番。今は林家たい平、古今亭菊之丞、春風亭昇太。
松竹梅 柳家さん喬。
ガマの油 三代目春風亭柳好の十八番中の十八番。六代目圓生。今は、四代目三遊亭金馬の十八番。
長短 五代目柳家小さんの十八番。八代目雷門助六、三代目桂三木助。今は、柳家小三治の十八番。柳家さん喬、古今亭志ん五、柳家さん八、四代目三遊亭金馬。
たちきり 桂米朝、五代目桂文枝の十八番。八代目三笑亭可楽。桂あやめ、入船亭扇橋、柳家さん喬、入船亭扇辰、柳亭左龍。
猫の災難 五代目柳家小さん「(喬太郎にとっての)小さんベスト」、六代目三遊亭圓生、六代目笑福亭松鶴の十八番。柳亭小燕枝、柳亭市馬。
犬の災難 五代目古今亭志ん生、六代目古今亭志ん馬、桃月庵白酒。
千早振る 三遊亭小遊三。柳家小三治、柳亭小燕枝、笑福亭福笑。
味噌蔵 八代目三笑亭可楽、四代目春風亭柳好。柳亭市馬、六代目柳家小さん、瀧川鯉昇。
時そば 三代目桂三木助、六代目春風亭柳好、五代目柳家小さん、古今亭志ん朝。今は、三遊亭白鳥(トキそば)。
二番煎じ 八代目三笑亭可楽、今は春風亭一朝の十八番。柳家さん喬。
蒟蒻問答 六代目春風亭柳橋、六代目三遊亭圓生、五代目柳家小さん、八代目林家正蔵、三笑亭夢楽。今は、柳家小三治、柳亭市馬、入船亭扇辰。
らくだ 六代目笑福亭松鶴の十八番中の十八番。五代目・六代目三遊亭圓生、五代目古今亭志ん生、五代目柳家小さん、八代目三笑亭可楽の十八番。今は、立川談志、柳家小三治、柳家権太楼、柳家さん喬の十八番。柳家喜多八、三遊亭歌武蔵、橘家文左衛門、立川談春。
船徳 八代目桂文楽の十八番。古今亭志ん朝、五代目柳家小さん。柳家さん喬。
お初徳兵衛 十代目金原亭馬生の十八番。
心眼 八代目桂文楽の十八番。今は、入船亭扇橋と九代目桂文楽、橘家圓蔵、柳家さん喬。
家見舞 春風亭正朝。
掛取萬歳 六代目三遊亭圓生の独壇場。三遊亭圓弥、柳家さん喬。工夫したのだと、六代目春風亭柳橋、六代目柳家つば女。今は、柳亭市馬「実に嬉しそうで楽しそうで」、立川志らく。
ねずみ 三代目桂三木助の十八番。四代目桂三木助。今は、入船亭扇橋の十八番。三遊亭圓窓、柳家さん喬、入船亭扇辰、柳家喬之助。
引っ越しの夢 六代目三遊亭圓生。今は、桂歌丸、三遊亭小遊三、柳家さん喬、入船亭扇遊。
小言幸兵衛 六代目三遊亭圓生の十八番。古今亭志ん朝。今は、柳家小三治。
搗屋幸兵衛 五代目古今亭志ん生、古今亭志ん朝
小言念仏 三代目三遊亭金馬。今は、柳家小三治の十八番。
うどんや 五代目柳家小さん、十代目金原亭馬生、八代目三笑亭可楽の十八番。今は、柳家小三治。
百川 六代目三遊亭圓生の十八番。今は、柳家小三治、柳家さん喬。
不動坊 桂枝雀。今は、入船亭扇遊。